「クソ」 穂

 

野糞をした。嘘ではない。文字通り野外で糞をした。18年間生きてきて意識上初めてである。

友人との食事中から腹は決壊寸前ではあったが悪いことにカフェの個室は1つ。なんとはなしに憚られて、あと30分ぐらいなら耐えれるだろう、友人を送るまで持てばいいぐらいに思いカフェを出た。

せっかく帰省した友と2時間で別れるのは何か惜しい気がしてバス停まで送ろうということになった。バス停の近くには大型ホームセンターがあり、そこならトイレもあるだろうという思いもあった。

しかしバスは一向に来ない。私はその時の会話をほとんど覚えていない。終始中腰で虚ろな顔で笑っていた気がする。

ようやくバスが来てホームセンターのトイレへと思ったところで、近くに墓場があったことを思い出す。ここの墓場はそれなりに綺麗で、無料休憩所というのがあってそこにトイレがあることを思い出したのだ。私は進むたびに溢れそうな腹を抑え、奇妙な内股でヨタヨタ歩きながら死にそうな顔で無料休憩所へ向かった。

休憩所のエレベーターのボタンを押すと中は光るのに扉は開かない。扉には、四時施錠の文字。今は四時十五分であった。

私はなぜ友をバス停まで送ったのだろうと心から悔やんだ。時すでに遅し。気の緩んだ私の腹は言うことを聞かない。ここで私は致した。

とっさの判断でティッシュペーパーを地面にひいた。誰かが見ているのではないかと気が気でなかった。

事後の処理に大変悩んだ。下に引いたティッシュのおかげで直に触れることは免れた。なんとか側の植え込みに捨て、肥やしになれと願った。すこし溢れた分は今夜の雨が流してくれると思った。

使ったティッシュをどこに捨てるか迷い、友達がくれた東京土産の包み紙で包んだ。私はなんとも悲しい気持ちになった。

ここは先祖の眠る墓地であった。友を裏切り、先祖を辱め、私はなにをしているのだろう。墓石を洗うはずの水道で汚れた手を洗い、友のくれた包み紙を人差し指と中指でほんの少しつまみながら、俯いて墓地を歩いた。

途中ゴミ箱がいくつもあり捨てようと思った。しかし友のくれた気遣いと先祖の眠る墓に私の排泄物を捨てるということがなんとも苦しく、ゴミ箱の蓋を開けては閉めるを二回繰り返した。ゴミ箱の中には雨水だけがあり、それが余計に私を虚しくさせた。いっそ漏らしてしまえばよかったとまで思った。風呂に入って洗濯して仕舞えば元どおりだった。もしくはホームセンターに行っていればよかった。後悔先に立たずとはまさにこのことである。

墓地の出口にある、最後のゴミ箱にとうとう負けた。私は友と先祖をいっぺんに裏切った。調べれば野糞は軽犯罪のようである。私は罪人である。この罪は一生かかっても償えぬ。野糞の呪いである。

 

コメント

去年の夏の大失敗を自分の中で何か意味付けするために書いたものです。あまりのショックで文章にしないと涙が止まらなくなってしまって書いたような記憶があります。未完と言うよりは内容が内容のため誰にも見せれなかった作品です。文章にするというのはなにか頭から思考を抽出してそのまま捨ててしまえるような、そういうもののような気がします。是非なんだこれはと思いながら笑い話だと思って私の思い出を一緒に供養してください。

 

考察

完成させているという一文が引っ掛かり、どうにも掲載できなかった作品です。この度の方針転換によって発表に至りました。

失敗談にしてはハードすぎて、匿名であってもブログやnoteには掲載しづらい性質を持っていると思われます。ただ、他に類を見ないテーマ力も同時に有していて、なかなか無視できない「私小説」だと感じました。これをエッセイなどと表現するといろいろと問題が生じるというか、そういうわけなので完全なるフィクションとして楽しみましょう。

そういうわけでこの作品は現実世界とまったく関係をもたず、そこからわかるように主人公と作者もまた、切り離されます。

 

小説を読むとき、読者は書かれていること以上のことを想像できますが、それは書かれていることから類推できなければならないと私は考えています。作者はこういう人柄なんだろうな、などと、読みながら思うのは失礼であり、そういうのは読んだ後にしみじみと考えたほうがよいのではないかと思うのです。

 

(もちろんちょっと読みづらい部分を「読みづらいな」と思うのは当然でしょうが、

「地面にティッシュ?ああ、アスファルトの上にいたのか」

「近くの墓地って、ホームセンターより近くにあるっていう認識でいいんだよな」

というように、少し言葉足らずな部分をただ断じるばかりで読むのをやめるのではなく、それに微笑んでもっと奥のテーマを読み取ろうとする意識を読者の側が持っていれば、世の中の創作のハードルはより下がるのではないでしょうか。)

 

たとえば、未発酵のし尿を肥料として作物に与えると、大量に含まれた有機物によって地中の微生物が過剰に活性化して窒素が欠乏し、根腐れを起こすので、肥溜めの無い現代日本において、野ぐそは草木の目線から見ても完全なる罪ですけれども、これを理由に「作者はこれを知らなかったのか」と言ってしまうのは意地悪で、ここでは「『私』は草木に対して、脱糞する苦し紛れの理由を作ったが、それは科学的事実に反している」というむなしさとか悲哀を感じさせており、一人称視点をたもって語られる作品の性質上ここで科学的事実を語らないのも余情があってよい、という風に解釈しました。

もちろん無批判にすべてを受け入れるのはよくないのですが、ゆとりを持った目線で観察すれば、多少粗削りなものからであってもポジティブな学びが得られるはずです。

 

出だしこそインパクトが爆発している小説ですが、そこに戸惑わずにじっくりと見ていけば、別に正直に言っても誰も嫌な思いしないのに、意識しちゃって変な気を遣うあたりにあるあると思ったり、一方で個室が一つなことが理由になるのちょっと分かんないなと思ったりするなど、他人の心の中をのぞき見していくちょっと素朴な楽しみもあって、ほほえましい気持ちになるかと言われればそんなことはないけども、楽しく読める「私小説」でした。

 

もちろん脱糞はしないほうが良いし、その経験を素性のわからない人間に送ったりしないほうが良いとは思いますが、穂さんの勇気に免じてここは一つ水に流しましょう。

 

 

 

 

 

 

サークルの方針を変更します

最近めっきり更新が滞っており、弊サークルをご存じの方々に置かれましては

「頑張るのは最初だけのクソサークルだったな調子乗んな猿怪人(さるかいじん)が」

「一時のテンションに身を委ねてんじゃないよこの駄野獣(だやじゅう)が」

「こんなクソサイト表示するために画素を使わすな汚泥星(おでっせい)が」

など、厳しいご意見をお持ちになっていることと思います。

 

この体たらく。もちろん私も危機感を持っております。

このままいけばこのサークルはどんどん埃をかぶっていき、次第に皆さんに忘れられ、私は「人が心に秘めていた作品を、無理やり、ぶっきらぼうに、ごつごつとした両の手で何の罪もない創作者からひったくり、そのうえ偉そうに長々と考察という名の駄文を垂れ流すという常軌を逸した活動を繰り返して、挙句の果てに突然飽きて全部やめたインモラル魔王」のレッテルを張られることでしょう。あんまりです。

 

実のところ、熱意は衰えていません。それなりに需要がある活動だと思っているし、何度かやってみて反応も悪くなかったし、一定量の文章を定期的に書くための理由ができて自分のスキルアップにもつながるしで、いいことづくめです。

ではなぜ更新ができなかったのか。理由は一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

応募がなかったからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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文芸サークルの活動なのに肝心の文芸作品がないのでは仕方がありません。

私は完全に無罪だったのです。悪いのはそっちだったのです。

 

しかし、過ぎたことを責めても何も変わりません。私は人間ができているので、すでに未来を見据えて解決策を一つ考えております。大丈夫。安心して。誰にでも失敗はあるよ。

 

 

この度未完文芸サークルは運営方針を変更します。

 

今までの方針では、完結していないもの(もしくは作品が完結しないことを書いたもの)に限って、作品を募集していましたが、今回その制限を取り払います。

オリジナル・未発表の作品であれば、いかなるテーマであっても、また、本人の中では完結したつもりであっても、また、もはや文芸作品と呼んでいいものか困るようなものであっても、どんな作品であっても必ず目を通し、必ずコメントをつけて、必ず掲載します。

 

作ったはいいけど人目に触れないままになっている作品がある方は、ぜひご一報ください。

Twitter→@mikanbungei

g-mail→mikanbungei@gmail.com

 

 

 経緯(ここから先は読まなくてもいいです)

応募が全く無くなってから、私はすこしだけ落ち込みました。

(やっぱり需要なんてなかったのかな。)

(そもそも途中まで書いてた小説なんてわざわざ保存しとかないよな。)

(妄想だけで先走っちゃったな。)

(私は妄想だけで先走る変態です……。)

ひとりごちながら夕焼けの下を歩き、注意力が散漫になっていたのか帰り道を致命的に間違えて奈良へ向かって歩み始めたまさにその時のことです。

携帯を見ると1通のメールが届いていました。

(正確には231通のメールが届いていましたが、219通は知らない人からで、11通は何かのメルマガだったので、便宜上1通とします。)

 

未完文芸のアドレスに届いたそのメールは、待ち望んでいた作品の応募メールでした。

しかし、その作品はルール上掲載できませんでした。

 

内容は伏せますが、作者本人による、人に言えないような「とある失敗」を、面白おかしく臨場感たっぷりに描いた素敵な私小説です。

 

「これは、いい!」

知らない公園の小さなブランコに腰を下ろして作品を読みながら、口に出して言いました。足元のハトが小さく逃げます。

 

どうやって考察しようかと考えていると、文末のコメントが目に入りました。

 

「未完というよりは内容が内容のため誰にも見せれなかった作品です。」

 

未完というよりは。

 

う~~~~~~~~~~~~~ん。

本人が未完じゃないって言ってるのはなあ~~~~~~~~~~~~~~。

内容はいいんだけど、そうか、まあ終わりもそんなに不自然じゃないよな~~~~~~~~~~~~~。

 

テーマを曲げるのはマズイような気がして、作者の方にお断りの連絡を入れて、掲載を見送らせていただくことにしました。

 

 

確かに本人はこれ以上何かを書き足したりするつもりはなさそうではあります。

しかし、どうにもやるせない気持ちになってしまいました。

 

どうにかできないかとこれまでの活動について考えます。

 

このブログは

・匿名、HNで投稿できる

・ある程度の人の目に触れる

・少なくとも一人、感想を書いてくれる人がいる

という特性を持っています。

これって、小説を書くのは好きだけど書いてるのがばれるのは恥ずかしいという方々にとって、結構いい条件なのではないでしょうか。

 

例えば作者が「ここで終わりだ」と思って恋人たちの明るい未来を予感させて終わらせたとしても、恋人たちにはこの後明るい未来があるはずで、もっと言えば彼らの子供たちや孫たちにも物語はあるはずだし、やがてそれらのすべてが朽ち果てたとしても世界は続くのですから、真の意味で完結させようと思えば宇宙ごと消すしかなくなってしまいます。

 

反対に、未完で終わったとされている作品のおしりを読んだときに、それまでの盛り上がりからすると確かに物足りなさは残るのですが、そもそも小説とか漫画のような芸術というのは、ある一人ないしは複数人の生きる世界の時間軸から、ある期間を切り取って提示する作業なので、作者の事情を無視すれば、完結したとされる作品のおしりと比べても、完成度以外の違いは何もないことになります。

 

作者は作品をどこかに出そうとする場合、最も素晴らしい終わらせ方を吟味しなければなりません。

ここまで書いたらやりすぎかな。でもここまで書かないと分かりにくいかな。

人に見せて評価されるのだと思うと、なかなかゴールテープが切れません。

 

小説を書くのが趣味だと言っている人の多くは、添削とか吟味とかいう概念が世界一キライな種族です。「高まってる」ときに好きなだけ書いて、それで終わりなのです。

 

「この終わり方でいいのか正直わかんねえけどとりあえずひと段落したから完成ってことにしといてくれや」の人々の作品は、これまでのルールでは拾い上げることができませんでした。

だから、未完の範囲を広げます。

 

「まだ人に見せていない作品」を未完という言葉の範囲にふくめます。

誰の目にも触れていない作品って、完結していないも同然じゃないでしょうか。

この説についてTwitter上では

うーん、まあ、よくわかんないけどそういう考え方もあるかもね」的な評価をいただいております。

 

(もちろん、毎日コツコツ書き溜めてきた秘密の日記とか、かなわぬ恋を慰めるために夢で埋め尽くすタイプの小説とか、そういうものはそもそも性質が違うのでしまっておいていいと思います。)

 

 

 

絶対にぼろくそにたたいたりしませんし、適当なコメントを2,3行書いて終了なんてこともしません。見せてください。考察させてください。

そして俺の株をあげてフォロワーを増やさせてください。

 

それでは今後ともよろしくお願いします。

 

「夏」 環

 

 

    ジージージーゥ…

 

    鼓膜に蝉の便りが届く。額から発生した大量の雫が、一部は眼球に、その他は眉間、頰、口を通って地面へと向かってゆく。

    不快だ…

    意識は朦朧していると言っても遜色ない。いまの「不快だ…」も口から発生したのか、はたまた脳内で喚いている様々な文言の中の一部にすぎないのか、それすらも判別がつかない。不快だ…。

    そもそも、そもそもだな、天気予報できれいなお姉さんが困り顔で「明日は一日中暑くなりそうです…。外での作業はできるだけ控えるようにしましょう!」とか言ってる状況でこんな仕事にか弱い女子高生を駆り出すのは実に道理から離れている。鬼畜の所業だ。おそらく発案者はアイヒマンの生まれ変わりに違いない、来世でプラナリアになっていただこう。死ねない苦しみを味わいながら自分の行いを反省しろ。

「何やってんの」

    頭上から突然声が降ってきた。

「特にこれということは」

「あと十分くらいで集合だって。これゴミ袋。」

 そう言って部長は市指定の白濁色の薄っぺらな袋を託して他の部員のところへまた向かっていく。

 

 うちの高校は、というより私が住んでいる市内の学校は大抵慰霊碑を所有していて、もちろんその管理は生徒にほぼ丸投げされている。学校の敷地内にあるならまあまだ文句を垂らしながらでも草むしりぐらい善意でやってやろうじゃないのという気落ちになるが、うちの慰霊碑はなぜか、市内のど真ん中に位置している。毎年この季節恒例の一斉清掃のためにある人は余分に交通費を払わされ、ある人は普段よりも長い時間をかけてこのほぼ亜熱帯気候の中を自転車で走らされる。もっとも最悪なのはその肝心の清掃場所である慰霊碑の周囲には木陰等、日を遮ってくれそうなものが存在しないことだ。かろうじて日陰が存在している道路の向こうに続々と清掃離脱者が集っていく。

 明日は市を挙げた大きな慰霊祭がある。私の高校の慰霊碑はその会場の真ん前故、喧騒の影響を直に受ける。怪しい黒いボックスカーはずっと慰霊碑の周辺道路をウロウロしているし、何かに強い反対の意思を持った集団は大きな段幕掲げて行進しているし、もっと狂った集団は公園内で座り込みしているし。

    ジージージーゥ…

    蝉の喧騒も相変わらずだ。

    とりあえずしゃがみこんで適当に草むしりしているふりをし続けていたら、再集合の時間が来たようだ。向こうの方からよく通る声で部長の呼ぶ声が聞こえる。

 

 

    「えー、我が高校が所有していますこの慰霊碑、もちろんみなさんはこれが建てられた経緯はご存知でしょうが…」

    こういう慈善的な行為には御偉方の挨拶が必要だ。その行為が、社会的に意義があって、「私たちは良いことをした」という意識を刷り込ませるために。そんな手法が通じるのは小学生まで、もしくは意味を深く考えず発言する低脳たちだけに限られるよなぁ、なんて気軽に炎上しそうなことばかり考えてしまう。

    今日召集された生徒はほとんどが運動部のようだ。炎天下の中毎日激しめに運動している専門職の皆さんでさえ、御偉方のお話の最中の無駄話を叩く余裕がないようだ。

 

    ジージーゥ…

 

    終わらない御偉方のお話

 

    ジージーゥ…

 

    黒いワンボックスカーの主張

 

    ジージーゥ…

 

    拡声器からの罵詈雑言

 

    ジージーゥ…

 

 

作者コメント

 色々作りはするもののいつも人目を忍んでしまうので、この悪癖を治すいいきっかけになれば良いなと…note頑張って更新しますのでよろしくおねがいします

 「夏」は浪人期に突発的に書き始めてマッハで飽きたものです。固有名詞は使わないぞという強い意志で当時は頑張っていました オチもヤマも何もありませんが…

 最後になりましたが、こんな素敵な活動をされている未完文芸サークルさんの今後益々のご活躍をお祈りしております みんなも押入れを漁ってみよう…

note https://note.mu/eheeahaha(スッカラカン

 

考察

 むせかえるような夏の日、長期休暇の真っただ中にもかかわらず、学生たちはある「式典」のために召集されます。その式典は国際的にも注目され、多くの人々が集まり、一見厳かに行われているのですが……。といった説明を聞いて「ピン」と来た人は、おそらく作者と同郷です。

 主観的な視点を表現するために、一人称視点を保ちながら固有名詞を極力使わないで書く、という工夫によって、「わかる人」には、じわじわと灼けるような夏の景色が浮かび上がり、終わらないセミの声も手伝って共感が呼び起こされます。しかし、作者は納得がいかなかったようで、未完の作品として発表することになりました。

 環さんは、「自分にとってあまりにも当たり前の事すぎて、そしてどこからどこまでが世間一般の事ではないのかが分からなくなり、書く気力が消失しました。」と述べています。主観的な視点から固有名詞を使わずに表現するにあたって、どの程度まで情報を隠してよいのか分からなくなってしまった、ということでしょうか。

 こういった苦悩は、一人で創作するときには必ずと言っていいほどついて回るものでしょう。このオチは驚くべきものになっているだろうか、伏線があからさますぎないだろうか、この話は読者に伝わっているのか……。「夏」の構造は先ほども述べたとおり、「わかる人」には面白いものになっています。しかし、「わからない人」にとってはどうでしょうか?

 

 ある種常套句のようになっているのですが、「第三者の意見を聞こう」というアドバイスがいたるところにあふれています。そして、それが効果的である、ということは想像に難くありません。初見の反応をうかがうことによって、内容は伝わっているか、工夫が成功しているか、といったように、作者だけではわからないことを知ることができます。

 なぜ当たり前のアドバイスがあふれているのかと言えば、やっていない人がたくさんいるからであり、なぜやらないかと言えば、自分の作品を(ましてや完成前の作品を)人に見せることのハードルが高すぎるからです。見せるのが恥ずかしいし、そもそも見せるのにちょうどいい相手なんて、なかなか身近にはいません。

 見る側になって考えてみても、これはかなり大変です。勇気を出して思い切って、自分のことを信頼して作品を見せてくれたとして、「悪いところは遠慮なく言ってね」と言われたとして、何をどう言えばいいのでしょうか。言葉を選びに選んで、濁しに濁してしまいそうです。

 そういうわけで世の創作者たちは、だれにも見せることなく作品を作ります。そして、時間をかければかけるほど、「これのどこがおもしろいんだ」という沼にはまり、やがて作るのをやめてしまいます。その中にダイヤの原石が眠っていたとしても、作者以外に見られていないのでは、分かりようがありません。

 

 この問題の一つの解決策として、「読者を完全に無視する」というものがあると考えられます。すべてを知っているのは自分だけ、という思いで作ってしまって、「わからない人」が何を言おうが耳を貸さない、という作戦です。

 そもそも、読書をしたときに作者の意図を100パーセントくみ取れる、という人が、いったい何人いるでしょうか。読書というものは、パロディや比喩のすべてが理解できなくても十分に楽しめるものですし、全員が理解できることを求める必要は、もしかしたら全くないかもしれません。

 「いったい何の話をしているのだろう」と頭をぐるぐる動かしながら、自分なりの考察をする。そして、そのうちにぼんやりと答えが見えてくる(あくまでぼんやりと)。そういう楽しみ方があります。

 あるいは、特定の地域や文化に関するニッチなネタを見て、それがわかる自分に酔いながら、作者に「分かるよ」と語り掛ける、という楽しみ方もあるのです。

 作者にしてみればめちゃくちゃな、あまりに的外れな考察であったとしても、読者にとってはそんなことは関係ないですし、作者が歩み寄らなくても勝手に楽しんでいたりします。

 

 「夏?慰霊祭?ははーん……。市内の高校だな?どうやらあの高校らしいな……。おいおい、俺はわかるからいいけど、広島県民以外にはピンとこんじゃろ……。」そうつぶやく私の口元はいやらしく吊り上がりました(考察の序盤にその態度がにじみ出ています)。

 このタイプの小説は「読者完全無視作戦」で進めて、完成まで持っていけるのではないでしょうか。もしかしたらまったく伝わらない人もいるのかもしれませんが、それはどんな小説でも同じことです。

 環さんの母校が、実際には長崎でも、あるいは沖縄でも(もしくは、そのうちのどれでもなくても)読者は勝手に想像して、勝手に楽しんでいると思います。皆さんはどうでしたか?
               

「無題」 タピ吸い 

こんにちは、趣味でタピ吸いを嗜む者です。第n-1次タピオカブームと第n次タピオカブームの合間でその魅力に取り憑かれ、にもかかわらず、世間の波に追いつかれ追い越された結果、ただのミーハーな奴認定を受けるに堕した悲しき生命体。それが私たちであります。一番流行りに疎いタイプなのにね。「ぽっと出の奴らとは違うのに!」という思いに縛られながら、悲しきかな今日も黒い粒が底に溜まった液体を吸い込む……。うるせえ、そんな奴はいません。そんなカスみたいな自意識はタピオカにして吸い込んじゃいなさい。出口が見えないのでここらへんでやめようと思います。もう夜遅いですし起きてから続きを書きますね。おやすみなさい。

 

おはようございます。

早速ですが、私のペンネームは昨日お伝えしたとおりタピ吸いでお願いします。略しちゃった。好きなタピオカ飲料はタピオカココナッツミルクです。当然ですね。ここまで読んで「さっむ……」と思ってページを閉じようとしたあなた、止めません。いい一日を。健康はラジオ体操から。こっちも書いていて寒気がしているのでお愛子様です。すげえ誤字だな、直さなくていいですか?

はい、戻りまーす。一応この文体で書いているのにも後付けですがきちんとした理由があり、読者には本当に同情します。読みにくくてたまんねえぜ。普段もそこそこの頻度で文章を書いているのですが、こういった文体で書くことは滅多になく、延々と一人でボケたりツッコんだりして読者を置き去りにするような、一切毒にも薬にもならない文章をやってみたくなったというのと、今回供養させていただく文章が今書いているこの文章よりもずっとサムいものに仕上がっているので耐性をつけてほしいという意図があります。前者と後者との比率は9:1くらいです。ちなみに文中で突然夜が明けるネタは受け売りです。矜持はねえのか。

さて、今回供養させていただく文章についてですが、私が高校3年生の、大学受験が終わった直後に書いたのではなかったかと記憶しています。もしかしたらご存知の方がいらっしゃるかもしれませんが、その当時「文章しか投稿できないSNS」というサービスがありました(今もおそらくありますが、過疎が進むばかりです)。

受験生であった私はそこに入り浸り、日々のストレスを見ず知らずの文章たちにぶつけ、ある時は画面の向こうの書き手の存在に勝手に救われたり、ささやかながら救ったりしたものでした。文章の力って本当にすごい。私の暗黒受験生時代を優しく照らしてくれたのは、間違いなくそれらの文章たちです。感謝してもしきれない。

その中で特に仲の良かった書き手は大学院生の方でした。当時は大学受験を終えたばかりで、大学とは一体どのような場所であるのか、そういったことに四六時中胸を膨らませるような純真な高校生でした。当然次に書く小説では「大学生活を描きたい」。純真ですね。

例の大学院生からは「大学を一切知らない人が描く大学を読んでみたい」というお声をいただきました。少しは調べろよ、という感じですが、面倒がった私はそのまま「私の中の大学はこんな感じだ!」というふわっとしたイメージのまま書き進めてしまったのでした。しくじりへの道まっしぐらですね。お手本みたいなしくじりです。その当然の帰結として、「わからんものは書けんわ!」と匙を投げられて放置された成れの果てが、下記の文章になります。かわいそう。

 

 

あの会話がなされたのはいつだったか。
僕の敬愛する友人、緑高貴が僕の前に相対し、僕の為に忠言し、僕の日々に顕現したのは。

雨の日に、大学構内のカフェテリアで、僕らは出会った。出会ったというよりも、その出会いは僕にとっては偶然で、緑にとっては必然だった。僕の座っていた目の前に突然現れた銀縁眼鏡のひょろ長い奴。それが緑だった。僕はその時ちょうどホットドッグに手をつけようとしていたような気がする。マスタードが好きで、特にこのカフェテリアのマスタードが好きだった。だから少なからず昼食を楽しみにしていた僕は、突然の来訪者に出鼻を挫かれた。初めて見る顔だったから、本当に困惑した。ここ一週間の生活を振り返って心当たりを手当たり次第探したりもした。無かった。いきなり他人が食事している席に座る、しかも目の前に座るなんて、僕には到底真似できない芸当だったので、その分印象が強かった。

「お前が、枝田黎か」

第一声はこれだった。僕は有名人なのだろうか。初対面の人間と話すときのお約束である、

「名前、何て読むんですか?……え、えだだ?」「えだです」

というやりとりをすっ飛ばし、しかも下の名前まで目の前の男は知っているのだ。えだ、れい。黎明の、れい。珍しいし、女の子みたいな名前だなと思ったこともあるが、自分自身はこの名前を気に入っている。

「そうですけど」

目の前の男は、それを聞くと頭を掻いた。ツヤのある長めの黒髪がわしゃわしゃ揺れる。ついでに眼鏡をくいっと直す。どうやら正面からでなく側面から眼鏡を直すタイプの眼鏡くんだ、とくだらないことを僕は思った。僕の今までに出会った人の中では、正面派が7割、側面派が3割だ。ヒーイズマイノリティ。

「そうか。俺は、緑高貴。名字が紫だったらもっとやんごとなかったのにな。突然話しかけて悪かった。びっくりさせたと思う。あー、そうだ。俺のことは高貴って呼んでくれて良い。よろしくな」

僕が枝田黎だと確定した途端めちゃくちゃ話し始めた。名字が紫、のくだりで少なからず自分に近いものを感じてしまったのが複雑だ。そして僕はまだあなたの名前しか知らない。一体何をよろしくされたのだ。

「はぁ……」

「そうか、お前がまほろの彼氏なのか。なるほどなぁ」

こいつ、勝手に話を進めていく。偏見だけれど理系っぽい。ちなみに僕は経済学部だ。きっと自分の思考回路は整然としているのだろうけれど、僕はその思考回路の途中で詰まって動けなくなってますよ、置いていってますよ高貴さん。そもそもまほろが何故ここで出てくる。こいつ、まほろの何なんだろう。いや、何だったのだろう、の方かもしれない。まほろは、ちょうど3日前に付き合い始めた可愛い女の子だ。

「……岐丸がどうかしましたか」

「あ、そうだよな。勝手に話を進めて悪かった。俺は、まほ……岐丸の幼馴染でな。いや!別に恋愛感情とかはない。昔からの付き合いで、兄妹みたいなものだ。それで、今日はまほ……岐丸をよろしくお願いしますっていうのと気をつけてくださいっていうのを言いに来たんだ」

「気をつけてくださいとは」

あー……と緑が頭を掻く。そしてついでに眼鏡を直す。どうやら癖のようだ。

「まぁ、その……なんだ。まほ……きま」「まほろでいいですよ」「そうか。その、な、まほろはめちゃくちゃ可愛いし、性格も良いし、最高だと思う。良い匂いするし」

匂いフェチか何かなのだろうか。

「ただ、まほろ自身は悪くないんだ。だけど、昔からまほろは誘引体質で。まだお前はまほろと付き合い始めて日が浅い。だからまだ何も起こっていないと思う。でも、頼むから気をつけてくれ。と言いたかったんだ。まほろが引き寄せる事件は、大事なものも、大したことないものも様々だが、とにかく巻き込まれるのは、本人じゃなくてまほろの周りにいる人たちだ。実際、まほろには前にも付き合っている人はいたが、まほろ自身の問題ではなくて、まほろと一緒にいるだけで色んなことが起こって疲れるからという理由で何回も別れ話を切り出されている––––」

緑が頭を下げた。

「お願いだから、まほろを守ってやってくれ。俺もできる限りのことはするから。今までは、事件に巻き込まれるのは俺の役目だった。俺が動き回って、まほろの人間関係なんかも守ってきた。俺はまほろの兄だから。でも––––」

まほろを守るのは兄だけでなく、彼氏の役目だから。と緑は言った。

これが、僕と緑との出会いであって、これがきっかけで僕は緑とよく会うようになった。正直、緑の言うまほろの誘引体質についてはこのときはまだ半信半疑だったし、唐突すぎて対応には困った。けれど、だからと言ってまほろへの思いは特に変わらなかった。
それから僕と緑はしばらく話し込んで、今までにまほろが引き寄せてきた事件と、その事件を穏便に解決するため、いかに緑が奔走してきたかの話を聞いた。なかなかにエクストリームだった。もし、緑から聞いたような事件が本当に僕の周りで起こり始めるのなら、僕の日常は一体どこへ向かおうとしているのだろうか。

「お前を最初見たとき、お前なら大丈夫そうだな、と思った。何が起こっても、それを普通のことにしてしまいそうな、そんな雰囲気を感じた。はっきり言って鈍そう」

「ばかにされてるのかな」

「褒めてるんだよ」

僕の大学生活は、ここでひとつの転機を迎えた。2回生の5月だった。僕は、これから待ち受けていた宝物のような毎日を、書き留めておこうと思い立った。多分、書き始めはこの日でよかったはずだ。緑と出会い、まほろの誘引体質のことを知った日。どこにでもありそうで、どこにもない僕の日常は、ここから始まった。

 

 

……はい。

惜しい! 全部惜しい!

やりたいことは、分かるけどな? という感じですね。

せっかくなので一個ずつ突っ込んでいくやつやりますか? 面白そうなので。でも、面白がっているのは私だけかもしれないので、回れ右するなら今ですよ。

それでも、このサムい自虐行為は最後までやり通さにゃならんのです。

この文章は、二度始まる。

 

あの会話がなされたのはいつだったか。
僕の敬愛する友人、緑高貴が僕の前に相対し、僕の為に忠言し、僕の日々に顕現したのは。

いやくどい! 西○維新を意識してそうですね。これは重症です。なんならそこまでドラマチックなシーンじゃないでしょう。仮にその緑くんが主人公の最大の敵だったらまだ良かったかもしれないですけどね。そのテンションで読み始めたらかなり拍子抜けすると思います。ちょっと使っている言葉もおかしいですね。はい……、このペースで全部行くからな。

雨の日に、大学構内のカフェテリアで、僕らは出会った。出会ったというよりも、その出会いは僕にとっては偶然で、緑にとっては必然だった。

素直に出会わんかい。その注釈は要らんのじゃ。これ以降、雨の描写一切関わってこないのウケますね。雨、要る? 雨降ってれば雰囲気出るだろ、みたいな安直な考えやめたほうがいいですよ。

僕の座っていた目の前に突然現れた銀縁眼鏡のひょろ長い奴。それが緑だった。僕はその時ちょうどホットドッグに手をつけようとしていたような気がする。マスタードが好きで、特にこのカフェテリアのマスタードが好きだった。

大学にそんなオシャレなもんは無い。いや、私立大学ならあるかもしれませんけどね。思えば、小説の中で描かれるキャンパスは皆華やかだな。あと、そのマスタードは絶対業務スーパーで買っているんだからそんな恥ずかしいこと言うのやめときなさい。

だから少なからず昼食を楽しみにしていた僕は、突然の来訪者に出鼻を挫かれた。初めて見る顔だったから、本当に困惑した。ここ一週間の生活を振り返って心当たりを手当たり次第探したりもした。無かった。いきなり他人が食事している席に座る、しかも目の前に座るなんて、僕には到底真似できない芸当だったので、その分印象が強かった。

ちょっと共感しちゃうな。自分で書いてるのだから当然なのですが……。

「お前が、枝田黎か」

第一声はこれだった。僕は有名人なのだろうか。初対面の人間と話すときのお約束である、

「名前、何て読むんですか?……え、えだだ?」「えだです」

というやりとりをすっ飛ばし、しかも下の名前まで目の前の男は知っているのだ。えだ、れい。黎明の、れい。珍しいし、女の子みたいな名前だなと思ったこともあるが、自分自身はこの名前を気に入っている。

「そうですけど」

目の前の男は、それを聞くと頭を掻いた。ツヤのある長めの黒髪がわしゃわしゃ揺れる。ついでに眼鏡をくいっと直す。どうやら正面からでなく側面から眼鏡を直すタイプの眼鏡くんだ、とくだらないことを僕は思った。僕の今までに出会った人の中では、正面派が7割、側面派が3割だ。ヒーイズマイノリティ。

ずっと鼻につくなこいつは。観察するな、仕分けるな、ラベルを貼るな。

「そうか。俺は、緑高貴。名字が紫だったらもっとやんごとなかったのにな。突然話しかけて悪かった。びっくりさせたと思う。あー、そうだ。俺のことは高貴って呼んでくれて良い。よろしくな」

お前もウザいんかい。やんごとなかった、とか中途半端な日本語を使うな。

僕が枝田黎だと確定した途端めちゃくちゃ話し始めた。名字が紫、のくだりで少なからず自分に近いものを感じてしまったのが複雑だ。そして僕はまだあなたの名前しか知らない。一体何をよろしくされたのだ。

複雑な気持ちになるんじゃねえ、自分を特別だと勘違いするな。そのとおり似た者同士だよお前らはよ。あとさっきから不要なメタ視点をちょくちょく入れてくるな。

「はぁ……」

「そうか、お前がまほろの彼氏なのか。なるほどなぁ」

ツッコミどころが多すぎて、ただツッコミがくどい奴みたいになっちゃってるのやめてください。最悪のボケに最悪のツッコミが重ねられ地獄が生まれている。

こいつ、勝手に話を進めていく。偏見だけれど理系っぽい。ちなみに僕は経済学部だ。きっと自分の思考回路は整然としているのだろうけれど、僕はその思考回路の途中で詰まって動けなくなってますよ、置いていってますよ高貴さん。そもそもまほろが何故ここで出てくる。こいつ、まほろの何なんだろう。いや、何だったのだろう、の方かもしれない。まほろは、ちょうど3日前に付き合い始めた可愛い女の子だ。

偏見すぎるだろ。あとそのラノベみたいな一人ツッコミやめなさい。全部ひとり語りの中で状況や登場人物の性格を説明しようとするのは全く芸がないですよ。あとまほろさんの説明雑だな。

「……岐丸がどうかしましたか」

「あ、そうだよな。勝手に話を進めて悪かった。俺は、まほ……岐丸の幼馴染でな。いや!別に恋愛感情とかはない。昔からの付き合いで、兄妹みたいなものだ。それで、今日はまほ……岐丸をよろしくお願いしますっていうのと気をつけてくださいっていうのを言いに来たんだ」

過保護か。

「気をつけてくださいとは」

あー……と緑が頭を掻く。そしてついでに眼鏡を直す。どうやら癖のようだ。

「まぁ、その……なんだ。まほ……きま」「まほろでいいですよ」「そうか。その、な、まほろはめちゃくちゃ可愛いし、性格も良いし、最高だと思う。良い匂いするし」

匂いフェチか何かなのだろうか。

緊張感をだな……。緩急を失敗してるのよ。あと、緑くん本当に気持ちが悪いな。

「ただ、まほろ自身は悪くないんだ。だけど、昔からまほろは誘引体質で。まだお前はまほろと付き合い始めて日が浅い。だからまだ何も起こっていないと思う。でも、頼むから気をつけてくれ。と言いたかったんだ。まほろが引き寄せる事件は、大事なものも、大したことないものも様々だが、とにかく巻き込まれるのは、本人じゃなくてまほろの周りにいる人たちだ。実際、まほろには前にも付き合っている人はいたが、まほろ自身の問題ではなくて、まほろと一緒にいるだけで色んなことが起こって疲れるからという理由で何回も別れ話を切り出されている––––」

緑が頭を下げた。

急に話動いたな。というか大きく出たな。その事件とやらが思いつかなくてボツになったんですよね。最初から強引に持って行きすぎです。悪い癖が出ている気がする。

「お願いだから、まほろを守ってやってくれ。俺もできる限りのことはするから。今までは、事件に巻き込まれるのは俺の役目だった。俺が動き回って、まほろの人間関係なんかも守ってきた。俺はまほろの兄だから。でも––––」

聞けば聞くほどやばい人ですねこの人。

まほろを守るのは兄だけでなく、彼氏の役目だから。と緑は言った。

そこは弁えるんかい、と思いますし、多分私が枝田くんだったら普通に投げ出したくなっちゃいますね。「ええ、何こいつ怖……近寄らんとこ……」ってなるでしょこれは。そうならない理由が少し弱いですね。もっと、まほろちゃんがとびきり可愛いだとか、そういうものでいいので、緑くんの変態さ加減をしてもまほろちゃんと付き合うメリットが上回るのはなぜなのか、説明が必要だと思います。

でもまあ、ずっと見ている限り枝田くんは「僕は人とは違う」「非日常に憧れる」などの気持ちを持った典型的な厨二病患者という感じがしますし、緑くんの話を聞いてまほろちゃんを一層神聖視してしまった節もあるかもしれませんね。というか、なんでこんな中身ペラッペラ男が可愛いらしいまほろちゃんと付き合えたんですか?

自分の作ったキャラクターだからいくらでも悪口言えちゃうな。

これが、僕と緑との出会いであって、これがきっかけで僕は緑とよく会うようになった。正直、緑の言うまほろの誘引体質についてはこのときはまだ半信半疑だったし、唐突すぎて対応には困った。けれど、だからと言ってまほろへの思いは特に変わらなかった。
それから僕と緑はしばらく話し込んで、今までにまほろが引き寄せてきた事件と、その事件を穏便に解決するため、いかに緑が奔走してきたかの話を聞いた。なかなかにエクストリームだった。もし、緑から聞いたような事件が本当に僕の周りで起こり始めるのなら、僕の日常は一体どこへ向かおうとしているのだろうか。

感想が薄いだろ。「僕の日常は一体どこへ向かおうとしているのだろうか」じゃあないんですよ、わくわくが抑えられてないよお前はよ。

「お前を最初見たとき、お前なら大丈夫そうだな、と思った。何が起こっても、それを普通のことにしてしまいそうな、そんな雰囲気を感じた。はっきり言って鈍そう」

「ばかにされてるのかな」

「褒めてるんだよ」

僕の大学生活は、ここでひとつの転機を迎えた。2回生の5月だった。僕は、これから待ち受けていた宝物のような毎日を、書き留めておこうと思い立った。多分、書き始めはこの日でよかったはずだ。緑と出会い、まほろの誘引体質のことを知った日。どこにでもありそうで、どこにもない僕の日常は、ここから始まった。

日常が云々と言っているともう全部嘘に聞こえますね。こいつ、絶対わくわくしてるんだぜ。話しながら小躍りしてるだろ。登場人物が全員薄っぺらすぎて、ストーリーの役割としか動いておらず、自我を一切持っていない気がします。数年前に書いた文章にこれだけケチを付けられるようになっただけまだマシということなのでしょうか。

いかがでしたか? 「俺たちは何を見せられているんだ」とお思いのことだと思います。知るかボケ。最後まで読んでしまった時点で貴方も負けです。泥仕合です。未完文芸サークルの方も、初っ端からこういった文章が送られてくるのはかなり可哀想だなという感じがしますね。しかし、未完の作品をこのような形で人目に晒すというのが、どこまで行っても醜い行為になることは仕方がありません。その醜さを私たちは受け入れなければならない。

未完のまま終わってしまった文章にはその数だけエピソードがあるのでしょうが、その大半が泥臭いものだと思います。もしかすると、文章もエピソードも美しく、未完であることで既に完成している話もこの世にはあるのかもしれません。それらは、この媒体にはむしろそぐわないのではないかと思います。それは、完成していることに変わりはないからです。

今回暗い場所から引きずり出してきた、このタイトルすら付けてもらえなかった出来損ないの文章は、こうやって自意識を自意識で以て殺すことで完成しました(要検証)。こうする以外になかったのか、という気もしますが、完全に忘れ去られていた文章が再び目を向けられ、作者によって内省され、他者へと共有されるというのは、いい取り組みだと思います。あくまで個人的な考えであり、私の考えが設立されて間もないサークルの方針に影響してしまうことは望んでいませんが。それでも、文章を書く私たちは時にこうやって自ら産み落としたものを殺して、まだ見ぬ作品のための肥やしにしていかなければいけませんね、と思います。

テキトーなことを言う癖も直したほうがいいですね。この一連の文章を通して私が伝えたいことは何もありません。何も考えずに手を滑らせて文字列を生成しました。くれぐれもこの文章から何かを得ようとしませんよう。お互いに時間を浪費し合ったことをただただ笑いましょう。ありがとうございました。

 

 

考察

 

圧倒的なパワーから繰り出される、大量のユーモアあふれるコメントと共に投稿していただきました。作品そのものについてはこれ以上何を語っても蛇足になってしまいそうです。

ということで、今回の考察では本文から少し離れて、この文章から感じ取れる「熱」について考えていきます。

 

過去に熱心になって書いた文章を読んで、自分であきれてしまうことがあります。

普通、文章を今まさに書いている、というとき、人間の視野というものはせいぜい前後2,3行分です。その視野の中で構成を立てようとすると、全体のバランスやキャラクターの印象などを考えることはできません。そうしていつの間にか「登場人物が全員薄っぺら」く、展開が「最初から強引」な小説が出来上がっています。

あとになって見返してみて、どうして冷静に書けなかったのだろう、この時は熱に浮かされていたのだろうか、と、ため息をつきながらゴミ箱に入れた経験。皆さんにもありませんか?

こういった流れが夜遅くに頻発することから、その時のテンションのことを俗に深夜テンションと言って笑い話にしたりもするのですが、ここで一度立ち止まって考えてみる、ということは多くの場合おろそかになっています。

 

熱に浮かされている、というときの「熱」というのは、いったい何を指しているのでしょうか。そのヒントがタピ吸いさんの文章から読み取れます。

「ふわっとしたイメージ」で書かれた大学生活。「西〇維新を意識してそう」な文体。これらはおそらく、狙って生まれたものではありません。

確かにあとから見れば本人が書いた突っ込みどころのある文章なのですが、それは、言語化することによって生まれた違和感であり、それが言葉になる前は、もっとあいまいな、ドロドロの状態で頭の中に格納されていたはずであり、それらには「ふわっとしたイメージ」などのラベルは張られていなかったはずです。

そのドロドロこそが「熱」ではないでしょうか。「今自分は何に従って書いているのか」など、言葉になっていないからわかりようがないですし、今まさに書いている人の視野で、自分の頭の中の客観視などできるはずがありません。

つまり、熱に浮かされている、とは、何も書いていない状態(もしくは客観視したうえで書いている状態)の人から見て、狭まった視野で考えながら違和感のある文章を書いている、という状態のことなのでしょう。

 

過去を振り返ってみて、あるいはほかの人の失敗作を見て、「熱に浮かされているな」、という感想を持つことは、必ずしも今の自分がその人の能力を上回っていることを指すわけではありません。客観視を忘れていきなり書き始めてしまえば、いくら深夜テンションをバカにしていようが、熱は平等に、人の頭を浮かします。熱は、いつでもあなたを見ています。

 

第1回からすばらしい作品でした。未完に終わった作品について振り返るというのは、やはりそれだけで価値のある事のようです。

くれぐれもこの文章から何かを得ようとしませんよう。お互いに時間を浪費し合ったことをただただ笑いましょう。

いえいえ。ご謙遜を。

 

未完クリエイターズファイルNO.1「ゲームクリエイター 斗ライ」

  未完の作品を抱えた方に、創作活動に関するインタビューを実施する「未完クリエイターズファイル」。第一回目は、ゲームクリエイターの「斗ライ」さんにお話をうかがいました。

 どのように創作を始めたのか、どうしてゲームは完成しなかったのか、今後どのような活動をしていきたいか について掘り下げていきます。

 

斗ライ (Twitter @SyoxtuKanGayoI)

大学1年生。これまでに作ったゲームは5つ。そのうち未完の作品は3つ。3つとも高校のときに作っていた。入学前には勉強も、部活も、ゲーム制作も、どれもおろそかにせず頑張ろうと思っていたのだが……。

 

未完のゲーム紹介

 

1.夢現(ゆめうつつ)

高校1年生の時作っていたRPG。たしか、突然眠ってしまう病が流行した世界が舞台。寝ている人の夢の中を冒険する。主人公たちの魔法や必殺技をカスタマイズできることがウリで、自分だけの技を作り上げ、主人公たちを鍛えていき、最後にはそのコピーが立ちはだかるという筋書きだった。

 カスタマイズでは技のダメージ量、属性などをプレイヤー自ら設定できる。レベルアップするごとにポイントがたまり、より強い技を作れるようになるシステムだった。

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しかし、技発動時のエフェクトや、追加効果など設定が次第に煩雑になっていく。そのほかにも思い付きでどんどん要素を追加していった結果、ちょっとシステムを追加するために大幅に後戻りする必要が生まれるなど、汚く、拡張性がないゲームになってしまい、開発しづらくなっていった。

 

ポイント→強力な発想力を持つがために、作りながらもどんどんわいてくるアイデアによって苦しめられているパターンです。妥協はしたくない。しかし手が追い付かない。この辺りが一人でゲームを作ることの難しさかもしれません。

2.綻び

高校2年生の時作っていたアクションゲーム。ある自作ゲームのコンテストで、友達がアクションゲームをつくって入賞した。それに触発されて、せっかくだから自分もコンテストに応募するつもりで作り始めた。

体が磁石になってしまった主人公が、剣や鉄球を体にくっつけて身を守ったり、反発させて発射して攻撃したりしながら先に進み、元の体を取り戻すというストーリー。

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夢現」の反省を生かして、先のことを考えながら作っていたが、敵を狙うシステムが面倒なことや、技を使うたびにメニュー画面を開く必要があることなどによって、アクションゲームとしてのテンポが悪くなり、なかなか納得のできるものが作れなかった。

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また、磁石の性質をできるかぎりリアルに近づけようとしたことが原因でバグが頻発。こだわりすぎてやはり複雑になっていった。

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そうこうしているうちにコンテストの応募の締め切りが近づいてきて、間に合わせるために別のゲームを開発することに。

3.ラスボスラッシュ

「綻び」の代わりに作ったRPG。コンテストに応募することを目標に急いで開発していた。様々な世界の「ラスボス的な奴」を倒していくゲーム。結局コンテストには間に合わず、そのまま受験対策の期間に突入。受験が終わった後にはモチベーションが全くなくなっていた。

高校の3年間では一つもゲームを完成させることができなかった。

 

ポイント→回避しがたいイベントによって中断された作業がそのまま立ち消えになっていく、ということもあるようです。特に進学校では、受験が半ば第一目標のような共通認識を与えられていて、ある時期を境にとても趣味に時間を割いている暇なんてない、という空気になったりします

 

今後の展望

ゲーム制作への意欲は強い。情報系の学科に進んだこともあって、高校時代よりは高度なものに挑戦できそうだ。

これまで使っていたツールではなく、「Unity」というツールを使えるように勉強中。自分の創作の動機の一つは、多くの人に自分を知ってもらうことだ。スマホアプリ開発にも対応できるUnityをマスターし、スマホゲームを作りたい。無料公開して多くの人に見てもらいたい。

また、大学に入ってから、ゲーム制作をやっていたという同級生と知り合った。ゲーム制作サークルのようなものを作るのもいいかな、とも思っている。

 

 

 ゲーム制作には、様々な能力が必要です。斬新なゲームシステムを生み出す発想力。魅力的なシナリオを紡ぐ文章力。それらを一つにまとめる技術力などなど。インディーズゲームが身近となって久しく、開発へのハードルは以前より低くなっているのですが、自力でゲームを完成させることの魅力も手間も、依然として変わっていないようです。高校生が一人で成し遂げるには、相当な気力が必要なのでしょう。

 斗ライさんは大学生になったことで、受験という回避困難なイベントから解放されました。また、情報系に進んだことで、学業と趣味が融合し始めました。環境はずいぶんと整ったようです。これから彼がどのような道を歩むのか、目が離せません。

  

 

 

このコーナーでは、未完の作品を抱えたクリエイターを募集しています。

小説、ゲーム、漫画、脚本などなど、分野は問いません。

なにかを完成させ、発表するまで、ふつうは誰も見てくれません。しかし、そういう孤独がモチベーション低下につながっている、ということもあると思います。

未だ道半ばのあなたの過去、今、そして未来について、ここで話してみませんか?

Twitter→@mikanbungei

gmail→mikanbungei@gmail.com

例 未完の小説の紹介

送っていただいた小説は以下のような感じで紹介していきたいと思っています。

・作者の意図を尊重して全文をそのまま引用する。(誤字脱字と思われる箇所は作者に確認し、問題なければこちらで訂正する。)

・本文の後ろに作者のコメントと、希望があればウェブサイトなどのリンクを記載する。

・最後に作品から読み取れる「未完」要素について考察し、それらしいコメントをする。

・ご意見やご質問等ありましたら、メールアドレスやツイッターのDMからご連絡ください。

 

先輩と私

 

「模試は、もう終わったのかい?」

「明日、数学と理科基礎があります。」

「ここに居ちゃあまずいじゃないか。隣は職員室なんだから。」

先輩は机に座って窓の外を見ながら、いつものようにこちらに顔を向けるそぶりも見せずに言った。

16時32分。日当たりの悪い多目的室にいるのは、私と先輩だけだ。

「関係ないですよ。文芸部らしい活動なんて、初めからやってないんですから。」

この学校では、試験期間中の部活動を禁止している。発覚したら、即、指導の対象になる。

もしも私がここで小説でも書いているのを先生に見られると、1か月程度、部活停止のペナルティが課せられるだろう。

とはいえ、この部室の中で文芸活動が行われたことは、私が入部してから一度もない。

「先輩と駄弁っているだけで指導されるなんてこと、あるわけないでしょう。」

「それもそうだけどねえ。」

先輩が、目にかかりそうな長い前髪を、軽くかき撫でながらそう呟いた。

そのあと、二人の間には沈黙が続いた。

この人はどちらかというと物静かなほうで、後輩に気を遣って話題を振ったりすることはあっても、相手がすすんで盛り上げようとしない限りは、おおむね黙って外を眺めている。

一方の私は、何となく部室で自習をしていて、そこに先輩が入ってきたものだから、思いもよらず二人きりになったこの状況にちょっぴり緊張してしまい、本当は何か話しかけたいのだけど、どうにも顔が熱くなって、返答するのに精いっぱいになっていた。

機関誌の一つも作らなかった文化祭の当日でさえ、ほとんど全員集まって、全然文学的じゃない話題でバカ騒ぎをしていたというのに、どうして今日に限って誰も来ないんだろう?

働かない頭をひねる。口を開いては閉じる。横顔を見つめるだけで時間が過ぎていく。先輩が小さくあくびした。

「おい。青春してるところ悪いが、もうカギ閉めちゃうから帰りなさい。」

突然ドアが開いて、デリカシーのない顧問が余計なことを言う。

「ただのテスト勉強です。そういうの、やめてください。」

「そうか。なんでもいいから早く出なさい。ホントは二年生は全員、即帰宅だったんだぞ。」

先輩が、クールに私の横をすり抜けていく。慌ててその後ろをついていった。

「サッカー部、今年すごいんだって。ユース出身が3人いるとかで。」

「ああ、新入生ですよね。ここってそんな選手が来るような高校なんですね。」

「そんなことないと思うんだけどねえ。すぐそこに、もっと強いところあるのになあ。」

 先輩は、中学までサッカー部だったそうだ。本人はその頃の話をあんまりしてくれないが、同じ中学だった先輩から、なかなかの選手だったと聞いた。

 どうしてこの高校に来たのだろうか。そしてなにより、どうして文芸部を選んだのだろうか。謎は深まるばかりだけど、なんだか触れてはいけない話題のような気がして、ずっと聞けないでいる。

「私は、スポーツはあんまりわかんないですね。小学校のドッヂボールで茶化されて嫌になっちゃって。それからはずっと、休憩時間にも本ばっかり読んでます。」

 さりげなく話題をすり替えた。このまま話を続けるのは、ちょっと無理だと思った。

「そういえば、体育祭休んでたよねえ。あれは、そういうこと?」

「……あー、そうですね。そういうことです。走ってるの見られるのが嫌で。」

「うーん。それはちょっと分かるかもな。でも、たまには運動しないと、体壊しちゃうよ。」

「いいんですよ。別に。いちいち嫌なこと思い出すぐらいなら、体ぐらいくれてやりますよ。」

 先輩が、小さく笑った。

「今日と、明日だよねえ。模試。」

「そうですね。日本史なんか、まだほとんど習ってないのにやらされて。60分もいらないのにきっちり待たされました。」

「あー。なんかそんなことあったかもなあ。」

緊張がやっとほぐれて、会話も弾んできた。2年目、まさかの急接近。

二人きりで一緒に帰ることは、今まで何回かあったものの、いつも私がしどろもどろになって、何にも起こらないまま最後の分かれ道に到着してきたのだった。

次は何を話そうか。どんな話が好きだろうか。口をもごもごさせていると、

「池田!」

先輩の名字が響く。フェンスの内側から、サッカー部っぽい恰好の人が呼ぶ。私たちは私立高校の前にいた。私たちの高校の近くにある、スポーツの強豪校。

「青春してる!」

「そういうのじゃないよ。」

「有言実行じゃんか!」

 声のでかいこの人は、先輩の中学時代のチームメイトらしい。

先輩は、なんだかいつもよりぶっきらぼうで、きまりの悪そうに対応していた。

 先輩が押されている様子は珍しくて、もう少し見物していたかったけど、すぐに強豪校らしく大迫力の怒号が、サボりの会話を切り裂いた。

「やばっ。監督キレてるわ。」

 先輩はちょっと安心して、練習に戻るように促していた。

 先輩の元チームメイトが走り去っていった。先輩は私のほうを向いて、ちょっとだけにらんだ後、すぐに微笑んで私の胸を小突いた。

「一番には、ああいうノリが嫌だったんだよ。」

「そう、みたいですね。」

グラウンドのサッカー部を眺める。ああいう空間に先輩がいる、というのは、ちょっと想像できないな、と思った。

しかし、まあ、もっと気になることがあった。聞かずにはいられなかった。

「それで、有言実行ってなんですか?」

「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」*1

 

 

「スッキリしたよ。チームメイト以外に初めてしゃべったかもねえ。」

「こういう聞き上手な人と出会えて、やっぱりここに入らなくてよかったと思うよ。」

 グラウンドを指さして言ったその言葉は、きっと私にとってうれしいものだったのだと思う。でも、素直には喜べなかった。

「……それじゃあ、そろそろ帰ろうかな。」

「伊藤くんは、あっちでしょう?また明日ね。」

 小さく手を振ると、先輩は歩き出した。いつもの先輩らしく、坂の向こうに見えなくなるまで、一度もこちらを振り返らなかった。

 「祝 女子サッカー部 全国大会出場」

目の前のフェンスには立派な横断幕が掲げられていた。

 

 

作者のコメント

 叙述トリックにあこがれて、男女入れ替わりの話を思いついたのだが、男女が入れ替わることを、大筋に影響させる方法がわからなくて呻いてしまった。結果、帰り道に男女が入れ替わるだけの話になってしまい、あえなくゴミ箱行きとなった。

 完全に消去したと思っていたのに、フォルダの整理中ひょっこり顔を出して私の心を傷つけた。

 

 

考察

 納得のいくものが作れなくて、人の目に触れることなく捨てられた作品です。どうやら最初に思いついた発想に引っ張られすぎていたようです。

 

  「どんでん返し」の爽快感というものは、当然ですが、オチだけで成り立ってはいません。結末をより衝撃的なものにするためには、効果的な伏線を文章の中にちりばめる必要があります。

 しかし、書き終わって「ちょっといい感じのオチだぞ」と思っても、一から読み返すとどうにも面白くない。

 伏線が破綻していないとすると、考えられる一番の原因は、「土壌が面白くない」すなわち、伏線がちりばめられている文章が面白くないということではないでしょうか。

 「どんでん返し」と帯に書いてあっても、十分に驚ける小説が存在します。それらは、あるいはオチのために書かれた小説かもしれませんが、細かい描写で手を抜かず、読者を物語世界に引き込んで、最後の十ページぐらいまでオチのことを忘れさせます。そして、「おいおい、そういうことになると話が変わってくるぞ」と、二度目の読書に誘うのです。

 コントの中で使われていた一発ギャグが、面白いからと言って流れを無視して繰り返されて、次第に死んでいく、みたいな現象と比べてみましょう。小説の技巧のかっこいい部分だけまねて、流れを無視すると、その技巧は死にます。

 面白くない理由がわかるだけでも、途中であきらめにくくなると思います。小説がしっくりこないときは、やりたいこと「以外」について注目してみるといいのかもしれません。

 

 

 

発足のお知らせ

  押入れの奥の落書き帳。エクスプローラーの底の隠しフォルダ。ふと思い出して中身をのぞくと、心がざわつき、鼓動が早まります。

 ゲームのキャラのギャグマンガ。剣と魔法のファンタジー。「伝えたくて、伝わらなくて」のラブコメディー……。

 今思えば、なぜ良いと思ったのか分からないというか、直視できない思い出が、いたるところに眠っています。

 苦痛に耐えながら見返していると、あることに気が付きました。それらすべてには共通点があったのです。


 それは、「完結していない」ということ。ちりばめられた伏線は片づけられないまま、本人にすら認識しない位置に放置されています。

 

 なぜ最後までやりきらなかったのか?

 ある時は学業に追われ、またある時は兄弟に揶揄され、ときに忘れ、ときに目を背け、というように、理由は様々。創作活動の道には、いくつもの壁がそびえているようです。

 

 情報技術の驚異的な進化によって、いまや創作における物理的なハードルは限りなく低くなっています。「完結さえすれば」即、世間に公開できるのです。「完結さえすれば」。

 しかし物語は完結しない。才能のせい?認めたくない!

 

 創作における未完作品発生のメカニズムを解明することを目指し、未完作品の収集、考察に努めるための組織として、ここに「大阪大学未完文芸サークル」の発足を宣言します。

 お疲れ様です、柏田です。今のところ賢さんの私見を語ることに終始していて、客観性のない文章になっている感が否めないかな、と思います。

 たとえば、冒頭で賢さんの作品について語っていたり、中盤で賢さんの「壁」について語っていたりしますが、そのあたり共感するかについて読者に問いかけてみてはいかがでしょうか。

 それから、メールアドレスやツイッターのIDを掲載し忘れています。投稿できないので早急に直してください。(次のように書いてください)

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作品の募集が中心となるこのメディアの特性上、できるだけ読者に寄り添う態度を見せて、投稿を促していくことが大事だと思います。

以上のことを中心にリライトしていきましょう。(これ以上締め切りを動かせないので、申し訳ありませんが急いでいただくことになります。)

それでは、 よろしくお願いします。